1月2012

下地イサム

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経験

ある実験で、アフリカのジャングルに住む種族の人を地平線が見える大平原に連れて行ったという話があります。その人はどういう行動をとったかというと、遠くにある大木を、たった数歩だけ歩いて手で触ろうとしたらしいのです。つまりこの人は、生まれた時から密林の中で生活してきたために、遠くの景色を見たことが一度もなく、地平線ほどの距離になると遠近感がつかめないというのです。

 

また別の実験では、水槽の中に大きな魚を一匹入れ、中間ほどの高さに透明なガラス板を入れて水槽を仕切り、その上に小魚たちを入れると、その大きな魚は小魚に喰らいつこうとするのですが、そのたびに何度も透明なガラス板にぶつかってしまい、やがて捕食を諦めてしまいます。そのとき透明なガラス板を抜き取ると、もうこの大きな魚は、目の前を小魚たちが泳いでいるというのに、二度と喰いつこうとはしなくなるというのです。何度となくトライして叶わなかった経験というものが、魚とはいえ効いているのです。

そう考えると、経験というのは恐ろしいですね。

しかしこのジャングルの方は、密林の外にさえ出なければ今のままでいいのです。自分は経験不足だとか、未熟者だなどと思わずに一生を過ごすことができるでしょう。この大きなお魚さんだって、海の中にガラス板があるものですか。そんな経験を強いるのは余計なお世話ですよ博士。

 

逆に私たちにしてみると、密林地帯に行けば初めて経験するようなことばかりでしょう。砂漠地帯に住む人たちの生活などは想像もつきませんしね。

小学生に対して大学で習う勉強を教えても無理があるように、経験というのもまた、あまりに環境が違う場所の人に対して、同じような経験を求めるのも無理があるのでしょうね。

 

例えば今、地球以外に生命体が住んでいる惑星があるとして、そこに住んでいる者たちは、今の私たちの生活 プラス 私たちの生活とは全く違う次元の生活を両方経験しているとしたらどうでしょう。地上で生活している者もいれば、空中で生活している者もある。普通に車で移動する者もあれば「どこでもドア」のようなモノを使って瞬時に移動する者もある。とすると、この者たちは私たちに比べて相当経験豊富な者たちということになりますか。私たちが地域で経験豊富な長老と崇めるような人などは、この者たちの前ではまだまだ何も知らない未熟者ということかもしれませんよ。

つまりここでは次のような答えが導きだされるはずです。

時間と場所と生命力の制約から解放されれば、私たちの経験は無限大!ということではないでしょうか。

たとえば500万年くらい生きられれば、ありとあらゆる経験が可能ですよ。

生活文化や環境の違うありとあらゆる場所に行くことができれば、新しい経験が可能ですって。地球から月へ、火星へ、そして太陽系外の惑星へと移動しても生きられる生命力があれば、それこそ宇宙を旅しながら毎日新しい経験をすることができるんですって奥さん。

 

しかし私たちには、限られた時間、限られた場所、そして限られた経験をすることしか与えられていないのです。そのことが意味するものはいったい何なのでしょう?

朝から晩まで畑を耕す人がいて、くる日もくる日も魚を捕りにいく人がいます。

そういう人たちがいないと、少なくとも今の交換経済を主軸とする私たちの人間社会というものは成り立たないんですよね。

その方たちは、世の中のありとあらゆることを経験していなくても、その道に関しては超スペシャリスト!経験豊富ですよ。

「経験豊富」とは、あれもこれもと新しい経験をすることではなく、一つのものをより深く、その道においては誰よりもいろいろなことを経験して知っているということなのかもしれませんよ旦那。

 

ということで、スノーボードに、スカイダイビングに、スマートフォン、すし職人、水晶玉占い、すいか栽培...

適当に「す」からはじまるものを挙げてみてさえこれだけのものが、いやいやまだまだ多くのものがねー、未経験なんですよ先生。

どうするもこうするもないでしょ。

もう寝るしかないですよ兄貴。

おやすみなさい。 

人生の確認

仕事の打ち合わせで二日間宮古に行ってきました。

朝、久松漁港から海沿いの道をずっと散歩していると、

人も車もほとんど通らない静まりかえった道を、

向こうから一人の男性が歩いてくるのが見えました。

すれ違うところまで近づいて、ふと顔を見ると、

実家の近所の先輩です。

その先輩は東京に住んでいるはずでしたが、

都会暮らしを引き払って久松に帰ってきているという噂を、

誰からとなく耳にしてはいました。

 

「アザ(兄貴)、なんでこんなところを歩いているの?」

と声をかけました。

「おいおい勇、お前でもう何人目かな」

笑いながらその先輩が言いました。

「オレは毎日ここを歩いているんだけど、誰かに会うと必ず

同じことを訊かれるんだよ。東京ではありえないことだったからさ、

子どものときはそうだったよなぁってつくづく思いながらなーんかおかしくてさ」

「久松に戻って来てるんですね」

「都会の生活にちょっと疲れちゃってさ、少し休みに来たんだよ」

「それで毎日この道を歩いてるんですか?」

「ああ、自分の人生を確認してるのさ」

ちょっとカッコつけたような照れ笑いを浮かべながら、でもどことなく寂しそうな眼をして先輩が言いました。

「人生の確認...ですか」

「そうなんだ。いろんなことがあったからさ。そうだ勇、あの丘の上から久松の海を見ようよ。オレの散歩コース、人生を確認するために外せないポイントだよ」

「僕もあそこが好きです。行きましょう」

ゆるやかな坂道を二人でゆっくり上っていきます。

歩きながら僕は、東京から戻ってきたときは自分も同じような気持ちだったなぁと、なぜかひとりでに先輩と同じような気持ちになっていくのを感じました。

「勇、ここからの眺めがオレは一番好きだ。最高だろ」

「ホントにいいですね」

「懐かしいけど、ずいぶん変わっちまったよな。あそこでいっつも泳いでいたし、この道は友だちと自転車競走をしたもんだ。あの頃の面影はもうないけどな。あの無人島だけが何も変わっていないってのが、何か皮肉だな」

「僕らもあそこで泳いだし、この道で自転車競走をしましたよ」

「ほう、お前らもか」

 

一緒に遊んだことはないのに、同じ遊びをしている。

この先輩たちがやっていたことを、僕らも同じようにやって、

同じように島を離れ、そして同じように人生を確認しに戻っている。

 

年齢だけが違うというだけで、この里を離れるまではほとんど変わらない暮らしをしていたはずです。それが島を離れてひとり立ちすると、全然違う道を歩んで、もしかしたらもう二度と会うこともなかったかもしれないその先輩と、こんな場所でバッタリ会ったかと思えば、同じ場所に同じ思い出を蘇らせ、同じような人生への思いに駆られている。何とも不思議な巡り会わせのようなものを感じずにはいられませんでした。

うちのおばぁがいっていた言葉、「己(どぅー)が根(にー)ゆ忘(ばし)なよ」

自分の根っこを忘れるなよ。

 

その言葉の意味があらためて自分の奥底に沁み入るのを感じながら、人生の確認をしに来た先輩に、僕自身いろんなことを確認させられたような気がしているのです。

 

みんな必死に生きているのだなぁ。

ではまた明日。

 

 

 

 

 

 

■下地勇10周年ベスト“静”+“動” 2012.2.22(水)発売!!!

 

 

 

 

 

 

沖縄・宮古島の方言で歌う唯一無二のシンガー・ソングライター下地勇 2002年のデビュー曲「我達が生まり島」、

名曲「おばぁ」「ワイドー」、 さらには新曲など全29曲を“静”と“動”の2枚に分けてたっぷりと収録。
方言で歌い続けた奇跡の10年間の軌跡!

下地勇10周年ベスト“静”+“動”

初回限定盤:TECI-1319~1320(CD2枚組+特典DVD&外箱付き)3,500円
通常盤:TECI-1321~1322(CD2枚組 通常仕様)3,000円

DISC-1 “静”
1. 我達が生まり島(2002シングル・バージョン) 2. 大和ぬ風 3. おばぁ 4. 帰る場所  5. 3% 6. ハイ アグ
7. ラストワルツ(ストリングス・バージョン) 8. 浜辺の老人 9. あの夏の日 10. 未開の地へ 11. 誇り 12. Reset
13.アンターマナ ※新曲 14.親父へのアーグ ※新曲

DISC-2“動”
1. 開拓者 2. 民衆の躍動 3. 黄金の言葉 4. サバぬにゃーん (Lost my sandal) 5. 信念の道 西へ 6. ワイドー
7. アタラカの星(ロング・バージョン) 8. ジャズィー・ミャーク 9. Happy我が子day 10. 世持つ雨(SAKISHIMAバージョン)
11. 狭道小からぴらす舟 12. 捨てぃうかでぃな 13. ZUMI 14. Kari 15. 心のうた(スタジオ・ライブ・バージョン)

特典DVD [下地勇MUSIC VIDEO CLIP集]
1. 我達が生まり島 2. 大和ぬ風 3. アタラカの星 4. おばぁ(LIVE) 5. 3% 6. 民衆の躍動 7. 狭道小からぴらす舟(LIVE)