ブレーキ

下地イサム

ブレーキ

飛行機が滑走路に着陸して、逆噴射の爆音とともにブレーキをかけるとき、
ものすごいスピードで走っていたことにあらためて気づかされるものです。  
水平飛行にうつってシートベルトサインが消えると、僕らは離陸のときの加速を忘れて、
おそろしいスピードで走っているという感覚を失ってしまうものなんですね。

それが着陸と同時に、
あれだけ長い滑走路を用意しておかないと止まれないほどのスピードというものを、
例の激しいブレーキがかかることによって、体で感じるわけです。

しぶりにふるさとに帰ったとき、両親が歳をとって小さくなっているのを見ると、
目をそらしたくなりながらも、時は流れていたんだなぁと感じてしまいます。
幼な子の記憶のままで止まっていた近所の子どもも、ちょっと見ない間に
高校生になっていたりして。
僕は少し戸惑ってしまいます。
時の流れの速さを実感する瞬間ですね。

曲を書こうと思って、ギターと白いノートを持って狭い部屋にこもるのですが、
1曲も書けずに3日、4日と過ぎていきます。
じっと動かないでいる時間が長いので、
時も動かないでいてくれているような錯覚に陥るのですが、
ベランダの植木鉢に植えたひまわりの芽は確かに伸びているし、
水そうの金魚も少しばかり太っているのです。
  
そうこうして一枚のアルバムができ上がる頃には、
自分の眉毛に一本、
白髪を発見しては、
倒れそうになってしまいます。  

あの激しい逆噴射がついでに、
時間にもブレーキをかけてくれないものでしょうか。