やる気スイッチが...その2

下地イサム

やる気スイッチが...その2

最近NHKのニュース番組で、やる気のない人が増えているという

特集をやっていました。

仕事への気力がまったくわかなくて、会社に行きたくない、

会社を辞めてしまう、就職をしない、何もしないで引きこもる、

など、社会にそう言う人たちが増えつつあるというのです。

 

実は僕も会社勤めをしていた頃、どうしてもやる気が出なくて、

毎日精神的にかなりしんどい思いをしていた時期がありました。

しんどい時は、誰にどんなアドバイスをもらっても正直しんどいです。

好きなことをしてストレスを発散させて、気持ちをリフレッシュしたら?

などとアドバイスをもらったりもしましたが、

どうせ仕事に戻らないといけないということが常に頭の片隅にあるので、

リフレッシュのためにやることが、

もうすでにリフレッシュとしての機能を失っていました。

それでも本だけは読んでいたので、自己啓発の本を買いあさったりもしましたが、

(少しは心を動かされることもありましたが)どれも決め手に欠くものばかりでした。

 

そんなとき、学生の頃アルバイトをしていた職場の先輩と久しぶりに会うことになり、

二人で飲みに行きました。

僕が、どうしてもやる気が出ない自分の現状を話すと、

先輩はじっと最後まで話を聞き終えてからこう言いました。

「立ち向かうか、かわしながら向かうか、逃げるか、多分この三つしかないと思うよ。

もうどうしようもない場合は逃げてもいいと思うけど、

下地は逃げる性格ではないと思う。上手にかわせるタイプでもないから、

仕事辞めたら?」

「えっ?...意味がわかりません。逃げないのに会社を辞めるんですか?」

「まあね、生き方として言っているだけだから。向かっているから辞める人もいれば、

辞めないのに逃げている人もいるよ。下地なら自分で考えてうまくやっていけるんじゃない?」

確かそのぐらいの短い言葉でした。

それを聞いた瞬間は、今ひとつピンと来ませんでしたが、

後になってその言葉は、じわじわと僕の中に入っていきました。

今まで聞いたどんな励ましの言葉よりも力強く、まったく新しい追い風のように、

僕の背中を押してくれることになったのです。

会社を辞めるということは必ずしも逃げるということではない。

会社を辞めないということが立ち向かうということでもない。それは生き方。

自分に向上心があって、将来こうなっていたいという姿が想像できて、

そこに向かってやり甲斐を持って生きていくための仕事をしたい。

でも残念ながら今の仕事にそれが見い出せないのなら、思い切って転職してもいい。

という意味であり、

また逆に、今の仕事を辞めないとするなら、上手にリフレッシュするなり、

仕事以外に好きなものを見つけるなりして、その好きなものを満喫するために

仕事をがんばる、我慢もする、とにかくうまくかわしながら向かっていけばいい、

という意味でもあり、

はたまた、真っ正面から立ち向かっていって、組織の上層部まで上り詰め、

会社の構造や組織風土や待遇などを自分の力で変えればいい、

という意味でもある。

自分の生き方は自分だけが決められる大きな権利。

それは義務でも何でもない、自分で選べるんだよ。と、

あの短い言葉が示唆した意味は、目から鱗が落ちるように、

新鮮な驚きと納得で、僕の心を奮い立たせたのです。

 

その後僕は、アルバイトを含む七つの仕事を転々と渡り歩きながら、

28歳で大学の夜間に通い、こうして今の仕事にたどり着きました。

回り道をしながらも、天職だと思える世界にたどり着けたのは、

あの時の先輩の言葉によって、転職という一歩を踏み出す勇気が

生まれたからだと思っています。

「忍耐力がない」「飽きっぽい」

僕の経歴は社会的にはそういう評価にしかならないかもしれません。

確かにそういう面も持ち合わせています(笑)。間違いではありません。

お世話になった会社に迷惑もかけてきました。それも事実です。

しかし、その後の僕は、自分が会社組織に在籍している間は、

全身全霊で仕事をしていました。一生懸命仕事をしながら、

自分の行くべき道を模索し、その結果転職という道を選択したのです。

先輩が言うところの「立ち向かう生き方」を、

あくまで自分なりにということですが、

たどり着ける場所まで一貫してやり通してきた結果だと思っています。

 

今やる気をなくして落ち込んだり、もがき苦しんだりしている人たちに言いたいです。

同じように無気力のどん底にいた僕でもそうやって変われたのです。

大丈夫です。ときに逃げることがあったとしても、

かわすことがあったとしても、何かに向かいたいと思う自分を見失わない限り、

その時は必ず訪れます。