クリスマスイブでございます!

下地イサム

クリスマスイブでございます!

クリスマスイブと言えば何ですか?

と尋ねてみました。

巷よりも狭い、僕の周りのごく近い人達に。

1.チキン

2.カップル&デート

3.山下達郎

んー、本当に何の変哲もない答えですね。

って、僕もそれ以外に何かあるのかと言われると...

 

そう言えば...また過去の話ですけど。

今から22年ぐらい前ですかねぇ。

ずいぶん遠い昔までさかのぼりますけど、

僕はとび職をしていて、鉄骨ビルを組み立てていたんですよ。

ちょうどクリスマスイブの日、とても寒い夜でした。

JR神田駅近くのビルで、突貫工事の夜間作業だったんです。

工期が迫っている現場というのは、何というか物言わぬ厳しさがあって、

「急ぎなさい」という暗黙の緊張した空気が、

そこに働く人たちの心の余裕を少しずつもぎ取っていく感じでした。

冷たい梁の上を地下足袋で歩き回り、

ボルトを締めたり足場を組んだりと、

そんな作業をひたすらくり返していました。

同じ作業をくり返していると、

人間というのはトランス状態のように陥って、

次第に無意識の中で作業に没頭してしまうものです。

夢中になって作業をしていたのですが、

ふと僕は視線を外して遠くを見ました。

寒々とした骨組みだけのビルの上から、

眼下に東京の夜景が広がっているのが見えました。

それはもううっとりするぐらい美しい夜景でした。

大都会のクリスマスイブの灯りです。

楽しそうな若者たちの声が耳に飛び込んできました。

カップルたちが肩を寄せ合いながら歩いているのが見えました。

一人で寂しそうに背中を丸めて歩いている人も見えました。

イブの夜というだけで、一人の人を勝手に寂しそうだと決めつけてしまいました。

年に一度のこの夜というのは、独身者の明暗がハッキリ分かれる

厳しい現実の夜でもありました。

優雅な雰囲気の漂う、華やかなクリスマスイルミネーションに囲まれて、

ふと我に返ると、寒空の下、投光器に照らされた僕らの現場が、

なぜかその現場の色だけが、周りの世界にとけ込んでいない感じがしました。

投光器の、やけに黄色いその色は、労働の色でした。

締め切りに追われた、現実の色でした。

 

「すもずぅー、おめぇなにボーッどすてるかぁぁっ!!」

 

東北出身の親方に怒鳴られ、

ハッとして手に持っていたボルトを落としそうになりながら、

命綱がしっかりと親ロープにつながっているのを確かめると、

僕は、凍てつくような鉄骨の梁の上をまた歩き出して、

再びあの無意識の世界に入り込んでいったのでした。

本当に何のオチもない話ですみません。

皆さん、思い思いに楽しい夜を!

メリークリスマス!